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2006年9月23日 (土)

今、幸せですか? -前編

 「例えば、ももんがさん、今、幸せですか?」

 場所は深夜のファミリーレストラン。残業後の遅い夕飯を食べながら、当時の同僚で、私が師匠と仰いでいたその人は問いかけてきた。

 幸せですよ、と答えた私に、彼は、そんなはずはないんです、と言い切った。

 

 ロボット制御のプログラミングはどこまで可能か?という話が最初だったと思う。

人間の脳には勝てないでしょう、という私に、彼は顔をちょっとしかめ、それはハードの問題で、今はロジックとして可能かどうかを言っているんです、と言った。

 「僕はですね、感情だって切り分けていけば必ず最後は無数のYes/Noで判断できるものだと思っています。」

 「だって、どちらでもない、って場合もあるじゃないですか。」

 「それはまだ切り分けが足りないんです。」

 自信持って言う彼と、もう少し議論を続けたくて、私は必死に反論を考えた。黙りこくった私にむかって、彼はさきほどの質問を言ったのだ。

 

 「ひとつでも嫌な事があったら不幸なんですよ。幸せにあらず、なんですから。だから、幸せな人というのは、いるわけがないんです。」

彼はそう断言した。

 認めたくなかった。

 自分が不幸である、と考えるのも嫌だが、彼自身が自分を不幸であると思っていることが、なきたくなるほど嫌だった。だから一生懸命、反論した。食後のコーヒーを追加してまで。

 

 少し考えて、仕掛けることにした。

 「じゃあ、幸せだな、と実感しているときは?そのときは幸せでしょう。」

 「それもおかしいですよ。だって嫌な事があるはずなんだから。」

 「その瞬間は嫌な事は忘れてるんですよ。無数の条件は全て消えて、幸せだな、と実感した理由しかないんです。」

 彼は一瞬黙り、しばらく考えた後にしぶしぶ認めた。

 「確かに、その場合は幸せかもしれませんね。」

 それを聞いてほっとしたのもつかの間、彼は続けて断言した。

 「でも、それ以外にはありえないんですよ。例えば今みたいに質問れた時に、幸せだ、という答えはあるはずがないんです。大抵の人は何かしら悩みを持っているんですから。」

 ああ、駄目だ。私はため息をついた。

 違う。絶対違う。でも何が違ってるかがわからない。得意げにコーヒーを飲む彼を目の前で、ただあせって、あせりながら、悲しくなった。

 「その答えは、間違ってないけど、あってないですよ。」

 弱々しく言った私に、

 「それもおかしいです。間違っていなければあってるんですよ。」

 と、満足げに彼はコーヒーを飲み干した。

 

 そのときは結局、その議論には勝てなかった。認めざるをえなかった。でも心の中では認めてなんていなかった。

 脳の機能の影響をあたえている無数のシナプス、接着か非接着で二進数の動きをするこの神経細胞の先にあるものの事など、一般的には知られていなかった頃のお話。

 もう、7年か8年以上前のこと。

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TB失礼します。コーヒーのおいしいいれかたや、コツをちょっとした薀蓄とともに招介します。おいしいコーヒーを自分で作りたい方見てください。 他には・・・。 [続きを読む]

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