逢瀬
昨日は確かに硬いつぼみの色だったはずなのに。
今日、喫煙所からみえる桜の木は、柔らかな色をまとっていた。
また春が来る。
また今年も、満開の桜に囲まれて、その美しさにたちすくむだろう自分を思う。
その時の、幸福感を思い出してうっとりする。
不思議なものだ。
かつて桜の木の下にいたときの自分が、幸せな状況だった事なんて、ほとんどないのに。
むしろ桜をみるたびに思い出すのは、悲しい記憶が多いのに。
それでも、桜を厭う気持ちにはまったくおきない。むしろ桜の下では、その悲しい記憶が懐かしいものになったりもする。
自然をみるのが好きだ。
それは常にみせてくれる風景が変わらないからだ、ということを知っている。
私が嬉しくても悲しくても、どんな気持ちでいようが、山も海も、当たり前だけど変わらない。
その変わらなさに、安心する自分を知っている。
だからきっと。
辛いときに傍で支えてくれた人を好きになる。そんな気持ちで桜を思っている。
嘆いていた自分を、苦しんでいた姿を、優しく受け止めていてくらた桜の木に恋をしているのだ。
だから桜をみるときは。
隣に人は必要ない。私と桜がいればそれでいい。
春が来る。
私は二人っきりの逢瀬を待ち焦がれて、わくわくする。

最近のコメント