« 鬼譚草紙 - 夢枕 獏,天野 喜孝 | トップページ | 誕生日 »

2008年4月 2日 (水)

再掲 -長い長いさんぽ

長い長いさんぽ ビームコミックス

長い長いさんぽ ビームコミックス

著者:須藤 真澄

長い長いさんぽ  ビームコミックス

春は別れの季節だと、わかっていても辛すぎる。

 生まれたのは初夏の頃。物置の中でした。

 お母さんはきれいな三毛で、私は黒トラでした。黒と茶トラの兄弟と、時折みかける大きな人から隠れるように遊びました。

 柱で爪とぎしてた時、通りがかった大きな人と眼があって、私はその場で凍りつきまして。怖くて怖くてぶるぶる震えて動けません。大きな人は、どこかへ行った後、白い飲み物をくれました。

 

 ある日、お母さんについて、大きな人のところへ行きました。

 黒と茶トラは平気みたいだけど、私は怖くてたまらない。いつも首をすくめてひるんじゃう。

 でもここにいる大きな人は優しくて、背中の毛をがしがし箒で掃いてくれて、気持ちよくって大好きでした。

 

 黒がいなくなりました。

 探したけれどみつかりません。お母さんは、よくある事よ、と言いました。

 気がついたら、箒で掃いてくれた人も、姿をみせなくなりました。

  

 私がお母さんと同じくらいになった頃。

 お母さんの、声とそれから綺麗な目が、壊れて使えなくなりました。

 おばあさんはそんなお母さんを邪魔にするので、私は怒ってやりました。

 茶トラは旅に出てしまって帰ってこないので、

 私はお母さんといつも一緒にいるようになりました。

 

 ある日、おばあさんは薬の匂いをさせるようになりました。

 ますます嫌いになったけど、その後、すぐにいなくなりました。

 お母さんには何も言わなかったけど、きっと気づいてた。おばあさんの足音に敏感だったのはお母さん。

 

 お母さんが怪我をしました。

 大きな人に抱えられ、薬の匂いをさせて戻ってきた時は、とても心配になりました。

 でもお母さんは元気になって、気配で私を探し当て、見えない目を私にむけます。

 お母さんはすごいです。

 

 でもある日突然。

 お母さんもいなくなりました。

 たくさんたくさん探したけれども、見つかりませんでした。

 たくさんたくさん呼んだけれども、返事はありませんでした。

 

 それから私は一人です。

 

 二度だけ恋をして、二度ほど子供も産みました。

 子供はすぐに連れ去られ、私はお母さんが、よくあることよ、と言ったのが、やせ我慢だと知りました。

 一度大きな人が私を薬の匂いのする場所へ連れてゆき、それから私は恋をしていません。

 

 大きな人たちは、私を時折構うけれど、昔ほどではありません。

 たまにだっこをされるけど、いつもちょっとだけ怖いです。

 時折逃げちゃうけど、そんな時には少しだけほっとします。

 かまってくれる人はいなくなるから。優しいのに慣れるとさみしいから。

 

  

 なぜ、こんなことを思い出してるのでしょう。

 さっきまで背中がいたくって、叫んだ声もかれはてて、それどころではなかったはずなのに。

 今だって、大きな人の膝の上にいて、いつもだったら怖くてびくびくしちゃうはず。

 

 なのになんだかいい気分。

 背中も今は痛くない。いつも眠る、冷蔵庫の上にいるみたいに身体はあったかい。

 気持ちいい、と思った時。春の湿った土の香りと一緒に、お花の香りをかぎました。

 これは梅の木。庭の隅で今、咲いている花。いつも居眠りをすると決めてる場所の香り。

 そしてお花の香りの向こう側に、お母さんの香りがしました。

 お母さん、お母さん、お母さん。

 私、ずっとさみしかったのかもしれません。

 

 今日は暖かいから、いつもの広場で眠ろうかと思っていたけれど、

今日は猫の集会があるけれど。

もう、いいのです。

ふと、そう思いました。お母さんの側のほうがずっといい。

決めちゃったらなんだか眠くなりました。

今年はお母さんと春がすごせる。

梅の木と、お母さんの香りをかぎながら、そう思って嬉しくなって、

幸せな気持ちで目を閉じました。

|

« 鬼譚草紙 - 夢枕 獏,天野 喜孝 | トップページ | 誕生日 »

「アニメ・コミック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 鬼譚草紙 - 夢枕 獏,天野 喜孝 | トップページ | 誕生日 »