再掲 -長い長いさんぽ
長い長いさんぽ ビームコミックス
| 長い長いさんぽ ビームコミックス 著者:須藤 真澄 | |
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春は別れの季節だと、わかっていても辛すぎる。
生まれたのは初夏の頃。物置の中でした。
お母さんはきれいな三毛で、私は黒トラでした。黒と茶トラの兄弟と、時折みかける大きな人から隠れるように遊びました。
柱で爪とぎしてた時、通りがかった大きな人と眼があって、私はその場で凍りつきまして。怖くて怖くてぶるぶる震えて動けません。大きな人は、どこかへ行った後、白い飲み物をくれました。
ある日、お母さんについて、大きな人のところへ行きました。
黒と茶トラは平気みたいだけど、私は怖くてたまらない。いつも首をすくめてひるんじゃう。
でもここにいる大きな人は優しくて、背中の毛をがしがし箒で掃いてくれて、気持ちよくって大好きでした。
黒がいなくなりました。
探したけれどみつかりません。お母さんは、よくある事よ、と言いました。
気がついたら、箒で掃いてくれた人も、姿をみせなくなりました。
私がお母さんと同じくらいになった頃。
お母さんの、声とそれから綺麗な目が、壊れて使えなくなりました。
おばあさんはそんなお母さんを邪魔にするので、私は怒ってやりました。
茶トラは旅に出てしまって帰ってこないので、
私はお母さんといつも一緒にいるようになりました。
ある日、おばあさんは薬の匂いをさせるようになりました。
ますます嫌いになったけど、その後、すぐにいなくなりました。
お母さんには何も言わなかったけど、きっと気づいてた。おばあさんの足音に敏感だったのはお母さん。
お母さんが怪我をしました。
大きな人に抱えられ、薬の匂いをさせて戻ってきた時は、とても心配になりました。
でもお母さんは元気になって、気配で私を探し当て、見えない目を私にむけます。
お母さんはすごいです。
でもある日突然。
お母さんもいなくなりました。
たくさんたくさん探したけれども、見つかりませんでした。
たくさんたくさん呼んだけれども、返事はありませんでした。
それから私は一人です。
二度だけ恋をして、二度ほど子供も産みました。
子供はすぐに連れ去られ、私はお母さんが、よくあることよ、と言ったのが、やせ我慢だと知りました。
一度大きな人が私を薬の匂いのする場所へ連れてゆき、それから私は恋をしていません。
大きな人たちは、私を時折構うけれど、昔ほどではありません。
たまにだっこをされるけど、いつもちょっとだけ怖いです。
時折逃げちゃうけど、そんな時には少しだけほっとします。
かまってくれる人はいなくなるから。優しいのに慣れるとさみしいから。
なぜ、こんなことを思い出してるのでしょう。
さっきまで背中がいたくって、叫んだ声もかれはてて、それどころではなかったはずなのに。
今だって、大きな人の膝の上にいて、いつもだったら怖くてびくびくしちゃうはず。
なのになんだかいい気分。
背中も今は痛くない。いつも眠る、冷蔵庫の上にいるみたいに身体はあったかい。
気持ちいい、と思った時。春の湿った土の香りと一緒に、お花の香りをかぎました。
これは梅の木。庭の隅で今、咲いている花。いつも居眠りをすると決めてる場所の香り。
そしてお花の香りの向こう側に、お母さんの香りがしました。
お母さん、お母さん、お母さん。
私、ずっとさみしかったのかもしれません。
今日は暖かいから、いつもの広場で眠ろうかと思っていたけれど、
今日は猫の集会があるけれど。
もう、いいのです。
ふと、そう思いました。お母さんの側のほうがずっといい。
決めちゃったらなんだか眠くなりました。
今年はお母さんと春がすごせる。
梅の木と、お母さんの香りをかぎながら、そう思って嬉しくなって、
幸せな気持ちで目を閉じました。

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